歯科コラムcolumn

歯周組織再生療法ガイドライン2023から読み解く 第2回「FGF-2製剤(リグロス®)の科学――日本発の世界初再生薬が変えた治療の可能性」2026/08/11

前回(第1回)では歯周組織再生療法の基本的な考え方と『歯周組織再生療法ガイドライン2023』の位置づけを解説しました。今回は、再生療法薬の中でも特に注目度が高く、日本発の医薬品として世界から評価されている「FGF-2製剤(一般名:トラフェルミン、商品名:リグロス®)」について深掘りします。リグロス®は2016年に世界に先駆けて日本で歯周組織再生薬として保険収載され、現在では多くの歯周病患者さんの治療に活用されています。武蔵小金井のハーヴェスト歯科・矯正歯科でもリグロス®を用いた歯周組織再生療法を提供しており、本記事ではその科学的背景・臨床エビデンス・適応条件・限界までを詳しく解説します。

リグロス®とは――日本発の世界初FGF-2歯周組織再生剤

リグロス®は、線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor-2: FGF-2、別名bFGF)を有効成分とする歯周組織再生剤です。2016年12月に厚生労働省より製造販売承認を受け、世界初のFGF-2歯周組織再生薬として日本の保険診療で使用できるようになりました。製造販売元は科研製薬株式会社で、もともと褥瘡・皮膚潰瘍治療薬「フィブラストスプレー®」として臨床使用されていたFGF-2を歯科領域に応用したものです。

FGF-2はもともと人間の体内にも存在するタンパク質で、細胞の増殖・分化・移動を促進するシグナル分子(成長因子)として機能します。1974年にウシ下垂体から単離されて以来、再生医療分野で広く研究されてきました。リグロス®は遺伝子組換え技術によって製造されたヒト由来のFGF-2で、純度の高い均質な製剤として安定供給されています。

作用機序――なぜ歯周組織が再生するのか

FGF-2は歯周組織のさまざまな細胞に作用し、複数の経路を通じて再生を促進します。具体的には次の4つのメカニズムが組み合わさって働きます。

① 歯根膜細胞の増殖・分化促進
歯根膜(歯と歯槽骨をつなぐ靱帯組織)には多能性をもつ間葉系幹細胞が含まれています。FGF-2はこの細胞群に強く作用し、増殖を促進するとともに、セメント芽細胞(セメント質を作る細胞)・骨芽細胞(骨を作る細胞)・線維芽細胞への分化を誘導します。歯根膜由来の細胞が活性化することは、真の再生(true regeneration)への重要なステップです。

② 血管新生(angiogenesis)の促進
組織の再生には十分な血液供給が不可欠です。FGF-2は血管内皮細胞に直接作用して新生血管の形成を促し、再生部位への酸素・栄養供給を増強します。これがリグロス®の効果が安定して得られる大きな理由の一つです。

③ 骨芽細胞の活性化と新生骨形成
骨芽細胞に対しても増殖シグナルを送り、欠損部の新生骨形成を活性化します。骨が増えることで歯槽骨レベルが回復し、歯の支持力が向上します。

④ 抗アポトーシス作用
FGF-2には細胞死(アポトーシス)を抑制する作用もあり、創傷治癒過程で再生細胞が早期に失われることを防ぎます。これによって再生反応が長く持続します。

臨床エビデンス――日本国内の大規模ランダム化比較試験

リグロス®の有効性は、保険収載前に行われた日本国内の多施設ランダム化二重盲検比較試験(RCT)によって厳密に検証されました。歯周炎による2壁性または3壁性の垂直性骨欠損(深さ3mm以上)を持つ患者を対象に、リグロス®群とプラセボ群(FGF-2を含まない基剤のみ)を比較し、術後36週時点の骨欠損部の充填量(X線・CTによる評価)と臨床アタッチメントレベル(CAL)の変化を主要評価項目としました。

結果は明確で、リグロス®群はプラセボ群と比較してCAL改善量・骨欠損充填率ともに統計学的に有意に優れていました。具体的には、CALの平均改善量はリグロス®群で2.4mmに対しプラセボ群で1.4mm、骨欠損の充填率はリグロス®群で約58%に対しプラセボ群で約35%と報告されています。この結果に基づき、ガイドライン2023では「2〜3壁性の垂直性骨欠損に対するFGF-2製剤の使用は推奨度B(行うことを推奨する)、エビデンスレベル1」と評価されています。

適応症――どのような骨欠損に効果があるか

リグロス®はすべての歯周病に効くわけではありません。臨床試験で有効性が示された適応症は明確に定義されています。

1. 2壁性または3壁性の垂直性骨欠損
骨欠損の壁が多いほど(3壁性>2壁性)再生空間が確保されやすく、効果が高くなります。歯と隣接歯の間の骨が欠損した形態が好適応です。

2. 骨欠損の深さが3mm以上
浅い骨欠損では効果が限定的です。3mm以上の深い骨欠損で十分な再生空間がある症例が適応となります。

3. プラークコントロールが確立した患者
O’Leary plaque indexで20%未満が一つの目安です。口腔衛生が確立されていない患者では術後感染リスクが高く、再生が起こりません。

4. 基本治療(SRP)完了後
歯肉の炎症が鎮静化していることが前提です。

手術の流れ

リグロス®を用いた歯周組織再生手術は、一般的な歯周外科手術(フラップ手術)の一部としてリグロス®を骨欠損部に塗布する形で行われます。所要時間は1〜2時間程度です。

(1) 局所麻酔下にて歯肉を切開し、フラップを剥離して骨欠損部を明示します。(2) 歯根面に付着した不良肉芽組織と歯石を徹底的に除去し、ルートプレーニングで根面を滑沢化します。(3) 骨欠損部を生理食塩水で洗浄し、止血を確認します。(4) リグロス®ゲル(0.3%トラフェルミン)を骨欠損部に均一に塗布します。骨欠損が大きい場合は人工骨や異種骨と組み合わせて使用することもあります。(5) フラップを元の位置に戻し、緊密に縫合して創部を閉鎖します。

術後は通常の歯周外科手術と同様に、抗菌薬(アモキシシリン等)と鎮痛薬(ロキソプロフェン等)が処方されます。術後2週間は手術部位への直接的なブラッシングを避け、洗口剤(クロルヘキシジン含嗽剤等)で口腔内を清潔に保ちます。抜糸は術後1〜2週、その後3〜6ヶ月ごとに経過観察を行います。

副作用と注意点・禁忌

リグロス®は歯周組織への局所適用薬であり、全身への吸収は最小限です。日本国内の臨床試験で報告された主な有害事象は、術部の疼痛・腫脹・創傷感染・口内炎などの術後局所反応で、多くは軽度かつ一過性でした。重篤な全身性副作用は報告されていません。

ただし、以下の患者さんへの使用は慎重な判断または禁忌となります。

慎重投与・原則禁忌
(1) 妊婦・授乳中の方:安全性が未確立のため避けることが望まれます。(2) 悪性腫瘍の既往または現在治療中の方:FGF-2には細胞増殖促進作用があるため、腫瘍細胞への影響を考慮し原則として使用を避けます。(3) 全身疾患のコントロールが不良な方:糖尿病でHbA1cが8.0%を超える場合や、免疫抑制状態にある方では効果が低下し感染リスクが高まります。(4) 重度の喫煙者:禁煙していない場合は効果が大幅に低下します。

リグロス®の限界――万能ではない

リグロス®は優れた再生薬ですが、すべての歯周病に同等の効果があるわけではありません。次のような症例では効果が限定的、または適応外となります。

1壁性骨欠損や水平性骨欠損では、再生空間を維持することが難しく、再生量が大幅に低下します。骨欠損の深さが2mm未満の浅い欠損では再生効果が乏しく、保険適用外となります。歯の動揺が強い症例では再生過程で組織が破壊されやすく、術前に咬合調整や暫間固定が必要です。喫煙者や糖尿病コントロール不良の患者では血流障害により効果が大幅に低下します。さらに術後の口腔衛生管理が不十分な場合、感染が起こり再生材料が機能しません。ガイドライン2023では、骨欠損形態と深さをX線・コーンビームCTで事前に評価し、適応を慎重に判断することを推奨しています。

他の再生材料との比較

リグロス®としばしば比較される再生材料に、第3回で詳述するエムドゲイン®(エナメルマトリックスデリバティブ)があります。両者の特徴をまとめると次のようになります。

リグロス®:有効成分はFGF-2(線維芽細胞増殖因子)、保険適用あり、日本でのエビデンス約10年、作用の特徴は血管新生促進と細胞増殖促進、骨欠損の充填効果が高い。

エムドゲイン®:有効成分はアメロゲニン(エナメルマトリックスタンパク質)、保険適用なし(自費)、国際エビデンス30年以上、作用の特徴は歯の発生プログラム模倣と抗炎症作用、長期エビデンスに基づく安定性が魅力。

どちらが「絶対に優れている」という結論は出ておらず、骨欠損の形態・深さ・患者さんのリスク因子・保険適用の可否などを総合的に判断して選択することが推奨されています。一部の症例では両者を併用するアプローチも研究されています。

費用の目安――保険適用で患者負担を抑える

リグロス®を用いた歯周組織再生療法は、健康保険が適用されます。3割負担の場合、1部位あたりの自己負担は概ね5,000〜10,000円程度(手術料・薬剤費・術後処置料を含む)が目安です。複数部位を同時に手術する場合は加算されます。エムドゲイン®や自費の骨補填材を併用する場合は、別途自費料金が必要になります。詳細な費用は、術前のカウンセリングで個別に説明いたします。

リグロス®の長期予後

FGF-2製剤は2016年保険収載のため、エムドゲイン®と比較すると長期データはまだ蓄積中ですが、5〜10年の中期追跡データでは、再生された骨レベルが安定的に維持されていることが報告されています。特に術後の定期メンテナンス(SPT:サポーティブペリオドンタルセラピー)を継続している患者では、再発率が低く、長期的な歯の保存率が高いことが示されています。

逆に、メンテナンスが不規則な患者では、術後数年で歯周病が再発し、せっかく再生した骨レベルが低下するリスクがあります。再生療法は「治療の終わり」ではなく「歯を長く守るためのスタート」と捉えることが大切です。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. リグロス®は安全ですか?
厚生労働省の承認を受けた医薬品であり、臨床試験で安全性が確認されています。FGF-2は人体にも存在するタンパク質で、適切に使用すれば全身的な副作用のリスクは低いとされています。

Q2. 1回の治療で何ヶ所まで使えますか?
同日に複数部位を治療することは可能ですが、患者さんの全身状態や術後管理の負担を考慮して計画します。広範囲の場合は数回に分けて治療することもあります。

Q3. 効果はどのくらいで実感できますか?
X線評価では術後6ヶ月で骨の充填が確認できることが多く、12ヶ月時点で再生がほぼ完了します。臨床的な歯肉の引き締まりや動揺の軽減はもっと早期に感じられることもあります。

Q4. 他院で抜歯と言われた歯にも使えますか?
骨欠損の形態と全身状態によっては適応となる場合があります。武蔵小金井ハーヴェスト歯科・矯正歯科ではセカンドオピニオンも承っていますので、お気軽にご相談ください。

まとめ――日本発の再生医療の誇り

リグロス®(FGF-2製剤)は、日本の研究者と科研製薬株式会社が長年の研究開発を経て生み出した、世界初のFGF-2歯周組織再生薬です。保険適用により多くの患者さんに恩恵が届く治療となりましたが、その効果を最大限に活かすには、適切な適応症例の選択、丁寧な手術手技、そして術後の口腔衛生管理と定期メンテナンスが不可欠です。

次回(第3回)は、リグロス®としばしば比較される自費の歯周組織再生材料「エムドゲイン®(エナメルマトリックスデリバティブ)」について、独特な作用機序と30年以上の国際的エビデンスを詳しく解説します。歯周組織再生療法やリグロス®についてのご相談は、武蔵小金井のハーヴェスト歯科・矯正歯科の歯周病外来までお気軽にお問い合わせください。

世界における日本発のリグロス®の評価

リグロス®は日本国内で開発・承認された医薬品ですが、その作用機序と臨床効果は世界中の歯周病学界からも注目されています。FGF-2を歯周組織再生に応用した世界初の保険収載薬として、欧米のシンポジウムや学会でも頻繁に紹介され、日本の歯周治療の独自性を象徴する成果と評価されています。今後、海外でのライセンス展開や臨床応用が進めば、世界中の歯周病患者さんに恩恵が広がる可能性があります。日本の歯科医療が世界に貢献する一例として、リグロス®は私たち歯科医師にとっても誇るべき存在です。

当院(武蔵小金井ハーヴェスト歯科・矯正歯科)におけるリグロス®治療

当院では、患者さんの歯を1本でも多く守るために、リグロス®を用いた歯周組織再生療法を積極的に提供しています。まずは精密歯周検査とX線・必要に応じたコーンビームCT撮影で骨欠損形態を正確に把握し、ガイドライン2023に沿って適応の可否を判断します。基本治療(SRP)を完了し、患者さんのプラークコントロールが確立した段階で手術を計画します。手術当日は無痛配慮の局所麻酔下で実施し、術後3〜6ヶ月で再生の進行を確認、その後は3〜6ヶ月ごとの定期メンテナンス(SPT)で再生組織を長期的に維持していきます。「他院で抜歯を勧められた」「歯周病が進んでいるが歯を残したい」という方は、ぜひ一度ご相談ください。

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