歯科コラムcolumn

歯周病学会ガイドラインから読み解く歯周病の世界【第2回】歯周病と心臓・血管疾患――治療でリスクマーカーが改善する2026/05/02

前回は歯周病と全身疾患の概論をお伝えしました。今回は最も研究が進んでいる「歯周病と血管障害」について、ガイドラインの内容をもとに詳しく解説します。

日本人の死因の約26%を占める血管疾患

厚生労働省の2022年の人口動態統計によると、日本人の死因第2位が心疾患(高血圧を除く)、第4位が脳血管疾患です。この2つを合わせると死亡総数の約26%を占め、毎年約40万人が命を落としています。いずれも「動脈硬化」が主要な原因となっています。動脈の壁にコレステロールが沈着して血管が硬化・狭窄し、血栓が形成されることで心筋梗塞や脳梗塞が引き起こされます。

歯周炎患者の冠動脈疾患リスクは1.14倍

ガイドラインでは、歯周炎患者は非罹患者と比べて冠動脈疾患のリスクが1.14倍(95%信頼区間:1.074〜1.213)高いことが、メタアナリシスによって示されています。また、冠動脈の石灰化が認められた患者は、そうでない患者に比べて歯槽骨吸収が重度であるという関連も明らかになっています。

さらに注目すべきは、心筋梗塞患者の冠動脈の血栓から歯周病原細菌のDNAが検出されたというシステマティックレビューの結果です(エビデンスレベル1+・最高位)。歯周ポケット内の細菌が血流に乗って冠動脈にまで到達し、血栓形成に関与している可能性が示されています。

歯周治療で動脈硬化リスクマーカーが改善――強い推奨

今回のガイドラインで特に重要なのがCQ(臨床質問)1-4「歯周治療を行うと動脈硬化性疾患のリスクマーカーは改善するか?」に対する答えです。

結論:「積極的な歯周治療によって動脈硬化性疾患のリスクマーカーは改善する」
〔エビデンスレベル:B(低い)、推奨の強さ:強い推奨〕

血液中のCRP(C反応性タンパク質)という炎症マーカーについて、10編のシステマティックレビューのうち9編が「歯周治療でCRPが有意に低下する」と結論づけています。その改善量は平均0.5〜0.7mg/L程度とされており、CRPは動脈硬化性疾患の発症予測因子として使われる指標です。

また、頸動脈の内膜中膜複合体厚さ(c-IMT)という動脈硬化の進行度を示す指標でも、歯周炎患者で増加が認められ(重度歯周炎患者で約1.7倍のリスク)、歯周治療後に短期的な改善の可能性が示されています。血管の弾力性を示すFMD(血流依存性血管拡張反応)も、歯周炎患者で低下し、歯周治療後に改善するというメタアナリシスの結果があります。

脳血管疾患との関係

脳卒中についても歯周病との関連が研究されています。脳梗塞患者と健常者を比較した研究では、歯周病の有無や重症度に差が認められており、歯周病が脳血管疾患のリスクファクターである可能性が示唆されています。ただし因果関係の証明には至っておらず、喫煙や高血圧など共通のリスクファクターの影響を排除した研究の蓄積が今後の課題です。

「治療で改善する」という事実が持つ意味

「歯周病を治せば心臓病が防げる」と断言できる段階ではありません。しかし「歯周治療を行うことで、動脈硬化に関連する炎症マーカーが有意に改善する」という事実は、複数の高質な研究で繰り返し示されています。心臓や血管に不安を抱えている方こそ、歯周病のケアを後回しにしないでほしいと思います。かかりつけの内科・循環器科と歯科が情報を共有し、連携して治療にあたることの重要性を、このガイドラインは改めて示しています。

次回は、妊娠中の方に特に知っていただきたい「歯周病と早産・低体重児出産のリスク」と、高齢者に多い「歯周病と誤嚥性肺炎の関係」についてお話しします。

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