歯科コラムcolumn

歯周病学会ガイドラインから読み解く歯周病の世界【第1回】口の中の炎症が全身に及ぼす影響2026/05/01

歯周病というと「歯茎が腫れる病気」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。ところが近年、歯周病は単なる口の中の問題にとどまらず、全身のさまざまな疾患と深く関わっていることが明らかになっています。日本歯周病学会は2025年1月、その集大成ともいえる改訂版『歯周病と全身の健康2025』を発刊しました。今回から全5回にわたって、この最新ガイドラインの内容をかみくだいてお伝えします。

「ペリオドンタルメディシン」という考え方

1990年代後半、アメリカで「Floss or Die(フロスをするか、死ぬか)」という衝撃的なキャンペーンが話題になりました。歯周病が心疾患など命に関わる病気と関連するとして、デンタルフロスによるケアの重要性を訴えるものでした。この頃から、歯周病と全身疾患の関係を研究する「ペリオドンタルメディシン(歯周医学)」という分野が急速に発展しました。日本歯周病学会はその後もこの分野のエビデンスを蓄積し、2016年の初版を経て、2025年に今回の改訂版を発刊するに至りました。

歯周病はなぜ全身に影響するのか

歯周病は「口腔バイオフィルム感染症」です。歯と歯茎の境目に形成される歯周病原細菌の集合体(プラーク)が慢性的な炎症を引き起こし、その炎症がTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインを血流に放出することで全身に影響します。これが「炎症ルート」です。

もうひとつが「菌血症ルート」です。歯周ポケット内の細菌が、歯磨きや食事の際に血液中に入り込み(菌血症)、遠隔臓器に影響を与えることがあります。実際に、心筋梗塞患者の冠動脈の血栓から歯周病原細菌のDNAが検出されたというシステマティックレビューが発表されており(エビデンスレベル最高位の1+)、歯周病菌が血流に乗って全身に拡散しているという証拠が積み重なっています。

2025年ガイドラインが取り上げる疾患

今回の改訂版で新たに扱われた疾患も含め、歯周病と関連する疾患として挙げられているのは、血管障害(心筋梗塞・狭心症・脳卒中)、周産期合併症(早産・低体重児出産・妊娠高血圧腎症)、呼吸器疾患(誤嚥性肺炎・COPD)、関節リウマチ、慢性腎臓病(CKD)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、認知症(アルツハイマー型)など多岐にわたります。これだけの疾患と歯周病が関わるという事実は、「歯をきれいにする」という行為の意味を大きく変えます。

「弱い推奨」が示す誠実さ

このガイドラインで注目したいのが、エビデンスの強さについて正直に開示している点です。多くの疾患との関連は現時点では「弱い推奨」にとどまっており、ガイドラインは「まだ因果関係は確立されていない」と明記しています。「歯周病を治せばすべての病気が防げる」という誇張とは一線を画した、科学的に誠実な姿勢が貫かれています。一方で「歯周病が全身に何らかの悪影響を与えている可能性が高い」という医学的な合意は、すでに国際的に形成されています。

今後、大規模な介入研究が進むことでさらにエビデンスが蓄積される分野です。だからこそ今、歯周病を「口だけの問題」と軽く見ないことが大切です。

次回は最も研究が進んでいるテーマ、「歯周病と心臓・血管疾患」について詳しくお伝えします。

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