歯科コラムcolumn
咬合とデジタルの融合 ― これからの時代に求められる「両輪の診療」2025/10/21
武蔵小金井ハーヴェスト歯科・矯正歯科では、
インプラント・補綴・矯正といった分野を横断して、「咬合(こうごう)」を中心に診療を組み立てています。
歯を一本ずつ治すだけでなく、咬み合わせ全体の調和を再構築することこそが、
長期的に安定した治療の鍵になると考えているからです。
そして近年、この咬合の分野にもデジタルが深く関わるようになってきました。
従来の咬合器を使ったアナログな分析に加えて、
デジタル咬合分析・スキャニング・フェイススキャンなど、
新しいテクノロジーを組み合わせることで、
より立体的で客観的な診断が可能になっています。
咬合器による「人の感覚でつかむ」精度
デジタル技術がどれだけ発展しても、
咬合器を使ったアナログの作業には今なお大きな意味があります。
咬合器は、患者さんの顎の動きを再現し、
上下の歯がどの位置で接触しているかを手の感覚で確認できる貴重なツールです。
私たちは、インプラント補綴や全顎的な再構成を行う際にも、
フェイスボウを使って咬合平面を正確に記録し、
模型を咬合器にマウントしてから分析を行います。
歯がどう動くか、どの位置で安定するかを、
実際に目で見て、手で確かめながら診断する――
このアナログの積み重ねが、精密な治療のベースになっています。
手の感覚から得られる「違和感」や「微妙な傾き」は、
どんな高性能なデジタルデータにも代えがたい情報です。
だからこそ、私たちはデジタルの前にまずアナログを理解することを大切にしています。
デジタルの強みは「可視化」と「再現性」
一方で、デジタルの世界はアナログにはない強みを持っています。
CT・口腔内スキャナー・フェイススキャナーなどのデータを組み合わせることで、
上下の歯列、顎の動き、顔貌との関係までを三次元的に再現できるようになりました。
咬合のズレを数値化して比較したり、
インプラントの埋入角度や補綴物の高さを事前にシミュレーションしたりすることで、
人の感覚では捉えきれない精度の治療計画が可能になります。
また、デジタルデータは一度記録すれば劣化せず、
いつでも再確認・修正ができる点も大きな利点です。
治療途中の変化を追跡したり、治療後のメンテナンスで比較したりと、
“時間軸で見える医療”を実現できるようになっています。
私たちは現在、咬合器を用いた分析とデジタル咬合システムを併用し、
両方のメリットを生かした診療を行っています。
アナログが持つ感覚的な洞察と、デジタルがもたらす客観性。
その二つを融合させることで、より正確で再現性の高い治療を目指しています。
どんな時代でも変わらない「基礎の力」
デジタルが進化しても、歯科医療の本質は変わりません。
咬合の理解、解剖学、咀嚼運動、筋肉と顎関節の関係。
これらの基礎知識が正確に身についていなければ、
デジタルを使いこなすことはできません。
新しいツールは、使う人の知識と経験の上に成り立っています。
たとえば、咬合器での分析経験があるからこそ、
スキャンデータの誤差や違和感を感覚的に読み取ることができます。
つまり、アナログの理解こそが、デジタルを正しく扱うための“言語”なのです。
武蔵小金井ハーヴェスト歯科・矯正歯科では、
この“基礎と応用”のバランスをとても大切にしています。
若い世代の歯科医師がデジタルを学ぶ際も、
まず咬合器に触れ、模型を咬ませ、実際に手で感じ取るところから始めます。
そのうえで、デジタルツールに置き換え、比較し、理解を深める。
この過程が、最終的に本当に精密な咬合の再現につながると考えています。
これからの「融合型」臨床へ
私たちが目指すのは、アナログとデジタルのどちらかに偏ることではありません。
両方を正しく理解し、目的に応じて柔軟に使い分けること。
咬合器で得た感覚的情報をデジタルデータで裏付け、
デジタルで得た分析結果をアナログの感覚で検証する。
この往復の積み重ねが、治療の確実性を高めていきます。
今後は、咬合の情報をフェイススキャンやモーションキャプチャと組み合わせ、
顎運動をデジタル上で再現する取り組みも進めていく予定です。
どんなに技術が進化しても、中心にあるのは“人の理解と判断”。
そのベースには、変わらない基礎知識と確かな手技があります。
武蔵小金井ハーヴェスト歯科・矯正歯科は、
アナログの良さを残しながら、デジタルの力を最大限に生かす医院でありたいと思っています。
咬合という根幹を見失わずに、
これからの時代にふさわしい精密で再現性のある歯科医療を追求していきます。
