歯科コラムcolumn

歯周病学会ガイドラインから読み解く歯周病の世界【第4回】歯周病と認知症・関節リウマチ――口の中の炎症が脳と関節に影響する2026/05/04

「認知症と歯周病が関係している」と聞いて、意外に感じる方も多いかもしれません。今回は、2025年ガイドラインが取り上げている「歯周病と認知症(アルツハイマー型)」および「歯周病と関節リウマチ」の最新エビデンスをご紹介します。

歯周病とアルツハイマー型認知症の関係

認知症は世界的な公衆衛生上の課題です。その中でも最も多いのがアルツハイマー型認知症で、認知症全体の約70%を占めます。脳にアミロイドβが蓄積し、神経細胞が破壊されることで記憶力や認知機能が低下していきます。

近年、歯周病とアルツハイマー型認知症の関係が研究者の間で注目されています。ガイドラインでは、この関係を結びつける経路として3つの可能性を挙げています。第一に「歯周炎がアルツハイマー型認知症を誘発または増悪させる」、第二に「アルツハイマー型認知症患者は口腔衛生が不十分になりやすく、歯周炎が重症化しやすい」、第三に「歯周炎とアルツハイマー型認知症が共通のリスクファクター(感染因子・遺伝的感受性・生活習慣)から生じる」というものです。

歯周病菌「P. gingivalis」が脳内で発見された

特に注目されているのが、歯周病の主要な原因菌であるPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)という細菌です。アルツハイマー型認知症患者の脳組織や脳脊髄液からこの細菌やその産生する毒素(ジンジパイン)が検出された研究報告があり、歯周病菌が脳に到達する可能性が示唆されています。この菌が脳内の免疫細胞(ミクログリア)を過剰に活性化させ、神経炎症を引き起こしてアルツハイマー型認知症を悪化させるメカニズムが研究されています。ただし現時点では「関連がある可能性」の段階であり、因果関係の証明にはさらなる研究が必要です。

歯の数と認知機能の関係

別の視点から見ると、「歯の数」と認知症リスクの関係を調べた研究も複数あります。歯が少ない(特に義歯を使用していない場合)ほど、認知症リスクが高まるという報告があります。咀嚼(噛む動作)が脳への血流や神経刺激を促すという観点から、歯を失わないことが認知機能の維持にもつながるという考え方です。

歯周病と関節リウマチ――共通する炎症メカニズム

関節リウマチ(RA)は、免疫系が自身の関節を攻撃することで慢性的な炎症と骨破壊が起きる自己免疫疾患です。歯周炎と関節リウマチはともに「慢性炎症疾患」であり、免疫・炎症メカニズムに共通点があることが分かっています。

ガイドラインでは、歯周病原細菌の中でもP. gingivalisが特に注目されています。この細菌が産生する酵素(PAD)が、関節リウマチの病態に関係するシトルリン化タンパク質の産生を促し、自己抗体(抗CCP抗体)の形成に関与する可能性が研究されています。複数の研究で、関節リウマチ患者は歯周炎の有病率が高く、重症度も高い傾向が報告されています。

また、関節リウマチ患者に歯周治療を行うと、関節リウマチの臨床指標(DAS28など)が改善するという研究も報告されており、ガイドラインでは「弱い推奨」として歯周治療の実施が示されています。関節リウマチの治療を受けている方は、ぜひ担当の医師に歯科との連携を相談してみてください。

全身の炎症を下げることが治療の共通目標

認知症も関節リウマチも、歯周病も、根本にあるのは「慢性的な炎症」です。口の中の炎症が全身の炎症レベルを引き上げ、それが全身の慢性疾患の発症・悪化に影響する。この視点に立てば、歯周病の治療は単なる歯茎ケアではなく、全身の炎症コントロールの一環として位置づけられます。歯科医院での定期的な管理が、将来の認知症予防や関節炎の改善に貢献できる可能性があるとしたら、定期検診に通う意味はいっそう大きくなるのではないでしょうか。

次回・最終回は、腎臓病・肝疾患・がんとの関係、そして「口腔ケアで全身を守る」ための実践的まとめをお伝えします。

24時間受付WEB診療予約