歯科コラムcolumn

歯周病学会ガイドラインから読み解く歯周病の世界【第3回】歯周病と早産・誤嚥性肺炎――妊婦と高齢者に知ってほしいこと2026/05/03

今回は、妊娠中の方と高齢者の方に特に知っていただきたいテーマを取り上げます。歯周病が早産・低体重児出産のリスクを高めること、そして高齢者では誤嚥性肺炎との深い関係があることを、ガイドラインをもとに解説します。

歯周病妊婦は早産リスクが1.61倍

日本歯周病学会の『歯周病と全身の健康2025』では、「歯周病に罹患した妊婦では、早産・低出生体重児出産・妊娠高血圧腎症のリスクが増加する」と明記されています。具体的な数字を見てみましょう。

複数のシステマティックレビューとメタアナリシスを総合すると、歯周病のある妊婦は歯周病のない妊婦に比べて早産のリスクが約1.61倍(リスク比:1.61、95%信頼区間:1.33〜1.95)、低体重児出産のリスクが約1.65倍(リスク比:1.65、95%信頼区間:1.27〜2.14)、妊娠高血圧腎症のリスクが約1.43倍(リスク比:1.43)高いことが示されています。

特に日本人を対象とした観察研究では、歯周ポケット4mm以上(歯周炎の指標)を持つ妊婦は、そうでない妊婦に比べて低体重児出産の確率が6.6倍も高いという衝撃的なデータが報告されています。

なぜ歯周病が早産に影響するのか

そのメカニズムとしてはいくつかの仮説が提唱されています。歯周病の炎症巣から産生されるIL-1β・PGE2(プロスタグランジンE2)・TNF-αなどの炎症性サイトカインが血流に乗り、子宮収縮を促進する可能性が研究されています。通常、正期産(満期の出産)の直前にもこれらのサイトカインが上昇して陣痛が起きますが、歯周病による慢性的なサイトカイン上昇がこのプロセスを早めてしまう可能性があるのです。

ただしガイドラインは「相関は認められるが因果関係は確立されていない」と記しており、今後の大規模研究が必要とされています。

妊娠前・妊娠中の歯科受診が大切な理由

こうしたリスクを踏まえ、妊娠を考えている方、あるいは妊娠中の方には積極的な歯科受診をお勧めしています。妊娠中でも安全な時期(妊娠中期:14〜27週)であれば、通常の歯科処置や歯石取りを受けることができます。むしろ妊娠中に歯茎の出血や腫れを感じていても「お腹の子に影響があるのでは」と受診を控えてしまう方が多いのですが、放置することのほうがリスクになりえます。

高齢者と誤嚥性肺炎――口腔ケアで命を守る

ガイドラインでは、口腔内細菌が誤嚥性肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患に関与することも示されています。特に高齢者では嚥下(飲み込み)機能が低下するため、就寝中に唾液や口腔内の細菌が気管に流れ込み、肺炎を引き起こす「誤嚥性肺炎」のリスクが高まります。

日本の高齢者を対象とした複数の研究では、専門的な口腔ケア(歯科衛生士によるケア)を定期的に受けたグループは、受けなかったグループに比べて誤嚥性肺炎の発症率が有意に低かったという結果が示されています。口の中を清潔に保つことが、肺の健康を守ることに直結しているのです。

年齢を問わず、定期的なケアが大切

今回取り上げた早産リスクと誤嚥性肺炎は、ライフステージによって関係する方が異なりますが、共通して言えることは「歯周病の放置が口の外の大きな問題につながる」ということです。妊娠を控えた方は妊娠前に、高齢の家族がいる方は定期的な歯科受診と専門的なクリーニングを、ぜひ検討してください。

次回は、最近特に注目を集めている「歯周病と認知症の関係」と「関節リウマチとの深いつながり」についてお話しします。

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